イマドキ若手育成術

対談テーマ:「イマドキ若手」育成術

今回は「イマドキ若手の育成」にフォーカスして、東北大学加齢医学研究所の川島教授と明治大学ラグビー部の田中監督にお話をお伺いしました。お二方の共通点は、「ラグビー」そして「今まさに、若手と接していること」です。普段、若手と接しているからこそ見えてくることを、体験談を交えて語っていただきました。





意識したのは「勝つためのマインドセット」と「健全な組織づくり」

(株)KODO ISHIN 栄木:
田中監督が着任してから、明治大学ラグビー部は2018年度に22年ぶりに大学選手権優勝を果たしました。
それ以前も、2017年にヘッドコーチに着任してから、常に優勝争いに絡むチームへと進化させました。
田中監督は、この4年間、どんなところを意識してイマドキ若手に関わってきたのですか?


田中澄憲監督(以下、敬称略):
(2021年現在)97年という歴史が明治大学ラグビー部にはありまして、日本一というのが13回。
私が中学生の時にちょうどテレビで目にしているチームだったんですが、本当に優勝するのが当たり前というチームでした。

そういうチームを見て憧れて、自分も明治大学ラグビー部に入部しました。
しかし、97年からガクンと落ちて約20年間ですか…、決勝戦にも行けないようなチームになっていたんです。
組織としても、あまり良くない状態だったと思います。
上下関係もそうですし、ルールというか、「勝つこと」以外何してもいいみたいな…私生活も含めて。
ちょっと今じゃ考えられないようなチーム状態だったのですが、やっぱりそういうチームになり、勝てなくなってくると人も来ないですし、「ウイニングカルチャー」みたいなのは一気に崩れてしまいまして、約20年間なかなか勝てなかったのだと思います。

自分は2017年に帰ってきましたが、そのときはもう一回日本一になるチーム、自分が憧れたように、ラグビーをやっている中学生や高校生が憧れる様なチーム、「輝きを取り戻す」というところをまず一つ目指しました。

そして、もう一つはやっぱり「健全な組織」というものをしっかり作ること。
それがしっかりできれば、この先の結果もそうですし、組織として価値があるチームにできるんじゃないかなと考えました。
まずは「勝つため」にどう努力するかという「マインドセット」の部分をしっかりとやってきたと思います。


栄木:
ー「勝つためのマインドセット」と「健全な組織づくり」という2つキーワード。
これはなかなか簡単ではないと思うのですが、具体的にどのような取り組みをされましたか?


田中:
「やると決めてやる」という事だけだと思います。
そんなに難しいことじゃない、シンプルなことで「どうやってやるのか」という部分をしっかりチームで共有して、「正しい努力」をしていったという事じゃないかなと思います。


栄木:

ー「どうやってやるのか」という事を決めて、チームとして「正しい努力」の方向性を共有したと。


田中:

はい。どのようにして日本一になるのかっていう道しるべ、マップがあってそこに向かって正しい道を進んでいくという事だと思います。


栄木:
ー田中監督の考える「正しい道」とは何ですか?


田中:

データの部分なども含めて、まずは「勝つための武器をしっかりと持つ」というところです。
そして「明治大学のラグビースタイルをもう一回取り戻す」というところだと思います。


栄木:
ー4年間振り返ってみて「上手くいった点」はどんなところですか?


田中:

上手くいった点はグラウンド内外の基準、「自分達の基準」というものがしっかりできたかなと思います。
小さな事なんですが例えば、走る「フィットネス」という練習があるのですが、例えば折り返す時にラインを踏むのか超えるのかとか。以前までは踏むどころか手前で帰ってくる選手がいたんですけども、それを踏むのではなくて超えるというのが基準になっているとかですね。だから相手との差がでる。
相手のチームは踏む事が基準であればこっちは超える事が基準だという小さな差というのを明治の基準にしていくという事が大事だったと思います。
それがだいぶ定着したかなと思います。だからこちらから、いちいちああしろ、こうしろと言わなくてもその部分は選手同士で言い合える事ができていると思います。

栄木:
ー 小さなことの大切さ。田中監督は「ディテール」という言葉を大切にされていますね。
  日常の生活習慣の「ディテール」なども見直されましたが、それはどういった意図からでしょうか。

田中:

「当たり前の事は当たり前にする」というのは普通と思います。
大学生なのでそういう部分が競技に出るというのもそうですし、勝ちだけを求めてもいつか負ける時が来ます。
負けたときに何も残らないチーム、競技人生を終えたときに何もない人間になるというのは一番哀しいことです。
だからこそ、人から応援してもらえるチーム、人間になる、そして社会に出ても必要とされる選手、人にならなきゃいけないと思っています。

それは本当に特別な事ではなくて当たり前のことなのですが、例えば挨拶するとか、時間を守るとか、あとは気配りが出来るとか、「人としての部分」というのが、指導していく上で、自分の中の軸にはあります。


栄木:
ー「人として」の軸を大切にされて、それを選手に落としこんでいった結果、選手のプレーの質が上がり、いわゆる勝つ組織につながっていったという事ですね。


田中:

そうですね。そこに終わりはないですけどね。
やっぱり完璧というもなは無いと思います。今も、もうそれの繰り返しですね。



栄木:
ーありがとうございます。
ここで、川島教授への質問があります。
田中監督の若手への関わりと、「組織としての成長」はどのような繋がりがあると考えますか。


川島隆太教授(以下、敬称略):

今の時代の若い子達は「当り前の事を当たり前にする」という文化がない子達が多い。
「当たり前の事を当たり前に続ける、やらなきゃいけない事をしっかりとやる」という脳の体力がない子達が基本的に多い気がします。

背景にあるのはやはり非常に大量の情報がマスメディアによってもたらされて、スマホ、タブレット等たくさんの情報が手軽に入るという状況の中で、なんでも答えがポッとでてきてしまう。
そして、自分で考えなくても自分で行動しなくてもインターネットの世界の中から覗き込むと何か答えがあって、自分が達成した気分になるという中で自然と育ってきたことが考えられます。

田中監督はそこを修正するために、すごい努力が必要だったんだろうなと感じて聴いていました。

こうした中で強く思ったのは、「日常生活習慣の見直し」というキーワードが出てきたとき、田中監督も「うん」という形で返事されていたと思うんですけども、やっぱりそこなんですね。

脳も体も基本的な日常生活習慣のルーティンが出来上がっていないとその最大能力を発揮するときに発揮できない。
乱れている子達というのは、いざ頑張ろうと思っても頑張れない。
これは心理学の世界でも解かっているところで、そこをまずきちんとされてきたというが明治大学ラグビー部の強みを出した一つの方向性かなと感じていました。

また「ラグビースタイルを取り戻す」というところでも、田中監督はおそらく学生たちに一つの理想のゴール、例えば「自分達がこの秋、12月、1月にこうなっているんだ」という、将来像を具体的に見せる事によって、ラグビースタイルを取り戻し、その「マインドセットをする」という事をされたのかなと思っています。

その将来のイメージを具体的に持たせるという事は、実はその人々に意欲を持たせる一番、真っすぐで強い方法だと心理学・認知学で考えられていています。
そこを具体的に目の前の事を、目の前の自分たちのやるべき事はここだと、だからこれをするんだと理解させてあげたというのは今の若い子達にとってはすごく有益だったのかなと。

おそらく私の時代とか田中監督の時代だと、自分で考えてそこに気付く子達が多かった様な気はするのですが、今はその不幸にして情報過多な社会の中で育てられた子供達にとっては田中監督が行ってきたようなプロセスは大事だったんだろうなと思って聴いていました。


栄木:
ーありがとうございます。
田中監督はどうやって「マインドセット」と「日常の生活習慣」を一人ひとりに落とし込んでいったのでしょうか?その方法論をお伺いできますか?


田中:

やはり先程川島教授もお話しされていましたが、「イメージ」が大事だと思います。レビュー・プレビュー。個人、チームのレビュー・プレビューに関しても、とにかく「絵」や「データ」というものをしっかりと提示して、例えば「2月はこうだったけども4月はこうなっていますよ、なぜかというと、こういうトレーニングをしていたからですよ」とか。
だから成長しているからこのまま続けていきましょうというような、「根拠」というものをしっかりと提示することを大事にしていたと思います。

生活習慣に関しては、寮生活なのでまずはしっかりと朝起きて、掃除するといったものの徹底です。
そして掃除する時間が来たから掃除するのではなくて、掃除の質はどこを目指しているのかという部分ですとか、自分のやってきた事をしっかり振り返らせること、スマホのアプリでしっかり自分のやるべき事をなんでもよいので3つあげて、それを今日できたかできなかったのか、なぜやらなかったのか、なぜできたのかというような、簡単ですけどそういうものを振り返る習慣、時間をつくってもらっていました。



栄木:
ー選手たちに絵」や「データ」を示して選手を動機づけしていく、ということについて、川島教授はどのようにお考えになられますか?


川島:

実は教育の世界、小中高校生にやる気をどうやって出させるかという事のプロジェクトをずっとおこなっているのですが、その中で経験して見えてきたのが、やはり今の子達に我々大人の言葉が通用しないということですね。

昔は背中を見せるというやり方でついてくるというストラテジー(戦略)がもうなくなってしまっていて、私たち大人がいかに薄汚れているかという事をネットの世界などの情報で見ている気がします。

だから例えば私が教授として若い連中にこうしろっと言っても通用しない事を多々経験しています。

そうした中で、未だに幸いだなと思ったのが科学に対しての疑いはあまり持っていない。要は、「データは普遍的なものであって、データから自分が読み取ったもの」というものに関しては、事実として認めてそれに沿って行動してくれるというところはまだ今の子達にも残っています。そういう意味では田中監督が行われたデータを提示して理解させるというのは必要なプロセスだったと思います。

残念な事に言葉で通用しない。
あと少しキーワードが出てきたのですが、やっぱスマートフォンを使いすぎというところはたぶんチームとしても問題意識を持たれるとまた変わるかなと思っています。


箸本キャプテンと少しお話しさせて頂いて、彼がやっぱり「意識してスマートフォン使わないようにしていた」と言ってまして、「その余った時間読を書に充てている」という話をしていました。それを自分で気付いてできたというところがキャプテンの資質がある子だなと思って、すごいなと思って見ていました。
その辺の感覚、例えばスマートフォンをダラダラ見ている時間が非常に無駄で自分のいろんなスキルをもしかするとそのスキルアップのチャンスを逃しているのではないかというところに気づけるかどうか、気付かせてあげられるかという事も、もしかすると次の世代の子達を大きく伸ばすために必要なのかなと思って見ていました。



栄木:
ーありがとうございます。
田中監督が4年間在籍されて、いまの4年生は1年の頃から関わられていたと思うのですが、特に成長を感じたなという学生は誰が挙げられますか?


田中:

川島教授も挙げていた「箸本」という学生ですね。
彼はラグビー選手としては入ってきた時から才能もありました。
ただ、丁寧さときめ細かさというものがなくて、どちらかというと荒い才能だけでやっているような人間でした。

彼が良かったのはやはり成長の意欲が高かったので、こちらが提示したものに対してどんどんチャレンジして、それを自分で考えてアレンジしながら練習に取り組んでいく、そして、自分の課題を自分で見つけて逆にこういう課題があるのでどういうトレーニングしたらよいかという部分が貪欲でした。

そして、最後4年生になってキャプテンになってプレーだけじゃない部分で自分の課題に気付いたと思うので、読書もそうですし人との関わり方、など課題に対して取り組んでいったっていう意味ではすごく1年生に比べて成長したなと思いました。





モチベーションアップの方法は小さな成功を体験すること

栄木:
ー「なかなかやる気の出ない学生に対してどうモチベートしていくのか?」という部分についてお伺いしてもよろしいですか?


田中:

これはすごく難しいことだと思います。
元々モチベートのない人のモチベーションを上げるのはすごく難しく、プロだったら通用しないですし、サラリーマンもプロだと思うので、お金もらってやってる以上は。だからそれも通用しないんじゃないかなと思っています。

今は自分の中でも葛藤しながらやっているのですけど、結局は「向き合う時間」なのかなと思っています。

0を100にはできないと思うのですが、粘り強く話していくという事ができれば、50とか30ぐらいにはできるのではないかなと思っています。

だから学生の間はそれが30でも良いと思っていて、そのあと社会に出て小さな成功体験が社会に出ても自信になって、意欲を出してまたチャレンジしていく事ができればそれでよいかなと思っています。

本当に小さな事でもよいので成功体験やモチベーションを与える機会を模索するのがやはり時間がかかるのかなと思っています。


栄木:
ー「小さな成功体験」が大切ということですね。
田中監督は本当に一人一人ときめ細やかに面倒を見られる方だな…と思ったエピソードがあります。
それは、サントリーでコーチをされている時に、なかなか芽が出ない選手に対して継続的に交換日記をやっていというものです。

川島教授は今の話をお聴になられてどうでしょうか?


川島:

私たちは実は大学院の子達を扱っているので、どちらかといっても社会人の扱いなのです。私も田中監督と同じポリシーが一つあって、小さな成功体験を必ず経験させるというところは意識をしています。

私たちにとっての成功体験とは何かというと、研究をしてそれを世界のライバルの前で胸を張って発表するというのが成功体験になるのですが、そこまで一回だけは私も必ずどの子も連れて行ってあげるということはしています。

ただ、そこから先はこの学問の世界もラグビーの世界、スポーツの世界と同じで生き残っていくのがすごく難しいのです。
だから、自ら考えて動ける子達でないと学問の世界で生き残る事できないので、どちらかというと早めに自分自身の人生の軌道を変えさせてあげた方がいいと思っています。
そこから先は放置をして自分の力で動かせてみて年に一度か二度だけレビューをしながらあるときは肩たたきをするというような方向でやっていました。

モチベーションの上げ方全般に関していうと、成功体験をさせるという事の他に、やはり「生活習慣はすごく大事だ」という事が子供のデータの解析で分かってきています。毎年7万人の公立小中高に通っている仙台市の子供全員調べているのですが、意欲を持っている子、いろんな意味で学ぶ意欲、様々な意欲を持っている子達はきちんと早寝早起きができて朝ごはんを食べている子達がすごく多いのです。

それが一番力が強いと。学校で先生がどう教えようが親がどう関わるという事よりも基本的な生活習慣の部分がすごく強いという事がわかってきました。

ですので、いま私は院生達にも私より早く来て、仕事をして、早く帰ってもいいから早く来て朝早く起きてご飯を食べてからやりなよって伝えているのですが、残念ながら私が一番早く未だに来ているということが続いています。(笑)

私は自分の師匠から学者として生き残りたかったら誰が来るよりも朝早く大学に行って、まず仕事を始めろと言われていたのでそれを愚直に守ってずっと続けてきたという事があります。

栄木:
ー学生きちんと向き合って、「小さな成功体験」を積ませる。あとは「本人の生活習慣」というのも外せない…ということですね。
本日は誠にありがとうございました。

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【編集後記】
私がリスペクトするお二方の対談が実現されました。
台本なしのアドリブの対談。どんな対談になるのか、私自身とても楽しみでした。
実は、川島教授と田中監督がこのように対話をする機会は初めてなのですが、根底にある価値観や考え方は共通するものがある…とつくづく感じました。
オンライン対談の収録時、20名ほどの方にもオブザーブの方にもお越しいただき質疑応答の時間を設けましたが、これも大いに盛り上がりました。(そして収録時間を大幅に超えてしまいました…)
他の方の了承をいただければぜひとも掲載できればと思っています。

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