川島隆太教授インタビュー(前編)

本日は、脳活動の研究を行われ、私達の身近なところでは、脳を鍛えるトレーニングゲームなどを監修されている東北大学加齢医学研究所の川島隆太教授に、オンラインにてインタビューをさせていただきました。

東北大学加齢医学研究所 川島隆太氏


現在の社会で川島教授が感じている課題感とは?

栄木:
ー 川島教授は、今の世の中にどんな問題を感じますか?

川島:
私自身、多くの若い人達と関わっているのですが、
「自ら能動的に何か行動するという若者が非常に少なくなっている」
ということが大きな問題
だと思っています。

その問題の大きな背景に何があるかと言うと、やはり「情報化社会の弊害」があると思います。
あまりにも多くの情報がインターネットなどを通じて流れてきています。
そして若者だけではなく、全ての人にも言えるのですが、
情報に埋もれてしまって、情報を受動的に受け取ることで精一杯になってしまっています。

そして、その情報があまりに多くありすぎるものだから、
自ら情報を選択して、その選択した情報に基づいて考えて、
主体的に行動するということがなかなかできないのです。
たとえ「目標がある」という若者たちであったとしてもです。
そこは非常に大きな危機感を覚えています。




栄木:
ー 「自ら考え主体的に行動することの欠如」という問題への打ち手として、
  川島教授が、今考えていることは何ですか?


川島:
なかなかこれが難しいんですよ。
やはりスマートフォンを始め、インターネットにいつでもどこでも接することができて、
常に情報が入るという環境に多くの人がいるため、
「自ら何かをする」ということを「どう仕向けるか」が難しいのです。


昔であれば、例えば私自身が教授として生き様を見せるということで、
背中を見せること自体が教育になり、人々の行動変容を図るということができていました。
ですが、今は全くそれが通じないという状況です。

今は一つ一つ細かくゆっくりと分かりやすい言葉で話しかけながら、
その行動変容を起こさせようとすることぐらいしか方法がないので、
どちらかと言うと打つ手なしという感じがしていますね。


栄木:
ー 「昔は違った」ということですが、いつ頃から「なんか変だぞ?」と思われるようになりましたか?

川島:
特に違和感強くなったのは2005年辺りからだと思います。
私が教授になったのが2001年になるのですが、そのころ私についてきた子達はまだしっかりと動くということが出来ていましたが、その後、2005年辺りから入ってきた大学院生達から様子が変わってきたように感じます。

例えば、彼らも明確に目標を持っているのです。将来学者になって独り立ちしたいと。
だけれども、それに向かって努力を自ら続けることができない、そういう不可思議な行動をする学生が増えてきましたね。
昔であれば、寝食を惜しんででも自分の目的の達成の為に努力をするということを我々はしてきたつもりなのですが、今は、例えば大学院生であっても五時半になったら家に帰る。
日中にできる範囲のことをやればいいや、というメンタリティに大きく変わっていったのを感じています。


栄木:
ー それは、なぜでしょうか?

川島:
若い人達は競争をしない、無理をしないという教育を受けてきたのではないかなと思います。
そのよく象徴的に言われるのが運動会で、一等賞というのを作らず一緒にゴールするなんていうことがなされていた時代もありましたよね。
「人と競争してあくせくして頑張る」という価値感を否定する、
そういう時代の中で教育されてきた子供達が、先ほどの大学院生のような行動をするようになったのかなと思っています。


栄木:
ー 今の若者達にとって「生きる意味」とはどういうことなのでしょうか。

川島:
若者達が真剣に生きる意味を考えて生活しているのか?というのは感じます。

そこでKODO ISHINの栄木さんがされている「成功体験を積ませる」という訓練が、
その認知を矯正するための訓練の一つ
だと言えます。
ですが、そういったことを地道にやってくれる人達がいなかったのでは?と思います。
学校教育の中でも、とりあえずマニュアル通りカリキュラムをこなして、
そしてなんとなく皆と同じでぼんやり上がってきたという子達が増えているという気はします。



栄木:
ー 川島教授が思い描く「理想の未来」は?

川島:
例えば、私たちはスマートフォンの弊害ということでスマートフォンを長時間使うことによって、
脳の発達が阻害されて、様々な能力が伸びないということを指摘してきました。

一方、スマートフォンを持っていてもそれを使いこなしている人達が概ね5%から10%いるという事実があります。

ですから、非常に魅力的なデバイスを持っていても、
それに食われずにちゃんと道具として使いこなすことができる人たちが、
これからの社会を動かしていくことになるのだろうなと思っています。

では、残りの人はどうなるかと言うと、まさに先程から杞憂(きゆう)している通り、
受動的であって自ら行動するということがほとんどない。
例えば、実際に人とコミュニケーションするということをせずに、
そのインターネット空間の中だけに自分の居場所を見つけるといったような行動を取っていくと、
大きな格差社会になっていくだろうと懸念しています。




ですから、まずそういった「
格差社会になるだろう」という予測が科学に裏付いてるということをぜひ人々に知っていただきたい。
そして、「そういった社会がつまらない」と思える人達が増えていくことによって、
そのごくわずかな人間に大衆が支配されるという未来を壊したいなという希望を持っています。

ですので、理想を言えばやはり多くの人が自らの意思で生活を楽しめる。
また、人に作られた生活ではなくて、自分なりの生活を楽しめるという社会を作るというのが理想
ですね。


栄木:
ー 理想的な社会にするには、川島教授のおっしゃる「脳の前頭前野の働き」が大切になってくるのですか?

川島:
そうですね。
そういった社会を作りたい、自らの未来を開きたいという気持ちは、
まさに脳の「前頭前野」から生まれてきます。
少なくとも前頭前野が健康でないとそういったことも考えられないですから、
私たちの脳を鍛えましょうというメッセージを発信したいと思っています。




(株)KODO ISHINの「ここが興味深い」と思うポイントは?

栄木:
ー 今回は川島教授のご厚意で取材に応じていただきましたが、(株)KODO ISHINの取り組みの「ここが興味深い」と思ったポイントは何ですか?


川島:
「成功体験の創出」ですね。
身近にある成功体験をしっかりと連続して経験することによって、
自己肯定感を高めるというのは、今の時代ものすごく重要なことだと思っています。
バーチャルな空間の中でなんとなくみんなと一緒にいるのではなくて、
リアルな空間で自らが行動してその結果が成功に繋がっているんだという体験、
これがやっぱりこの時代にぜひとも、特に若い小さい子供達に経験してもらいたい
なという思いを持っていて、
企業理念を見て思いました。



栄木:
ー 「この時代」というところがポイントですね。

川島:
そう思います。
例えば、私が育った昭和30年代後半から昭和40年代であれば何も無かったので、
自ら楽しむために自ら行動をしないと何も得られませんでした。
ただ、自ら行動すると結果が必ずついてきますから、その結果うまくいけばいい報酬になり成功体験になり、
失敗も失敗でまたそれは糧になり、反省の基になりということを生活の中で経験できました。
でも今は、なかなかできないのです。

例えば、事前にインターネットで調べることで、
「こうすればどうなるという方程式が誰かが書いたいい加減な記事に基づいて得られる方程式があるんだ」
ということを知って、そこから脱却しようとしないと、
それ
自分自身の成功体験じゃなくて他者の成功、もしくは他者の教えをトレースしてるだけなのです。

これでは自己肯定感は絶対高まってこないのです。
「自分の力で自分は何かできるんだ」という気持ち。
これが人が伸びていく、前を向いて登っていくためにはどうしても必要な気持ちであり、
それを育むということができていない。
それを優しく気づかせることができるプログラムが重要だと思います。



栄木:
ー 「学業で成績を上げるのも『成功体験』だから、今の時代でも『勉強をすること』で『自己肯定感』を高められるのでは?」という意見も出てきそうですが。 

川島:
はい。そういう成功体験というのも有りだと思います。
勉強というのは試験があるので、努力した結果が点数で現れるという、これもわかりやすい成功体験ではあると思います。

ただ、勉強は誰もがその成功体験を得られるというものではありません。
おそらくごくわずかな人達が「勉強が得意」というその性質を持ち
その成功体験を得ることができるので、万人に向いた方法ではないと考えています。
「勉強」という成功体験の方法は、確かにあってもよいと思います。
も、もっと身近な行動で誰でも100人がいれば、99人、100人の人が成功体験を得られるというプログラムがすごく重要だと思います。


成功体験を通して人は集中力、継続する力を伸ばす

栄木:
ー 身近な行動でいうと、たとえば「ゴミ拾い」があります。
「なぜ『ゴミを拾い』を続けることが脳にとって良いのか
?」という質問について、
 脳科学的な観点でお答えいただけますか?


川島:
ゴミを拾うということで結果として環境が綺麗になり、かつ周りの人が喜ぶ。
これがまさに成功体験で報酬になる
わけです。
そして、我々の脳というのは、「何かをしたい」という気持ち、
まさに
報酬系によって「何かをしよう、継続していこう」という気持ちが生まれることが、
脳科学的に分かっています。


これは金銭の報酬でも、褒められるという報酬でも全部同じ経路が働きます。
この報酬系が働くことで行動も変えられますし、
かつ「※前頭葉を中心とした報酬系」というのは前頭前野が主なプレイヤーになりますので、
そこをしっかり使うということにもなってきます。
(※テレビゲームなどは報酬系は働くが、前頭前野は働かないと言われている)


そして、「集中力」、「継続する力」は同じく前頭前野から生まれてくるものです。
これらを「ゴミ拾い」など身近な行動の成功体験を通して、行動が良くなることで、
集中力、継続する力といったものが伸びていくというルートにのせることができます。
こういった
功体験がないと、人は物事を続けることが難しいのです。

要は、「自分は続けられるんだ」という成功体験がないと、
「理想論ではいけそうな気がしても実際にはいけない」となるのですが、
それは当たり前のことだと思うのです。

ゴミを拾うことと、集中力や学力が伸びるといったようなことの間には一見大きな乖離があるように見えます。
ただ、脳にとってその報酬系をしっかりと働かせて自分の行動を認めて、そして強化するということ、
これがその次のステップに繋がる一番大事なプロセスですから、
そこのプロセスをその脳に経験させてやるということを無しには、
その先にはなかなか行くのは難しいと思います。

続きは後編へ


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